一人焼肉革命
「焼肉は複数人で食べるもの」という常識を壊した話
2018年8月29日、東京・新橋。
「焼肉ライク」の1号店がオープンした。
一人用のロースターが1台ずつ設置された席。タッチパネルで注文。50グラム単位で肉を選べる。注文から約3分で肉が届く。平均滞在時間22分。
「焼肉のファストフード」——このコンセプトは、飲食業界の常識をひとつ壊した。
「焼肉は複数人で行くもの」という、誰も疑わなかった常識を…
焼肉が「一人では入りにくい」場所だった理由は明確だ。
大きなロースターを複数人で囲む構造。大皿でシェアする文化。「焼肉=宴会・お祝い・グループ飲み」という位置づけ。一人でカウンター席に座れる焼肉屋は、ほぼ存在しなかった。
しかし需要は確実にあった。
「焼肉は好きだけど、一緒に行く人がいない」「一人でパパッと食べたい」「同僚との付き合い焼肉ではなく、自分のペースで食べたい」——そういう人たちが、行き場を探していた。
焼肉ライクを開発したのは西山知義氏。「牛角」の創業者で、6〜7年で800店舗を展開しギネス記録を持つ、外食業界では「神様」と称される人物だ。
彼がこのコンセプトにたどり着いたヒントは「回転寿司」だった。
回転寿司が登場する以前、寿司は「職人と向き合うカウンター、緊張感、高い敷居」のものだった。回転寿司はその敷居を壊し、一人でも気軽に寿司を食べられる文化を作った。
「焼肉でも同じことができる」と西山氏は考えた。
技術的な核心は「無煙ロースター」だ。従来の焼肉店では煙が充満し、服に匂いがつく。これが「気軽に一人で行く」の障壁になっていた。焼肉ライクは各席に強力な無煙ロースターを設置し、2分30秒ごとに店内の空気を全入れ替えする。ランチタイムに一人でスーツのまま焼肉を食べても、午後の会議に出られる。
もう一つの障壁は「量」だった。複数人で行けば様々な部位をシェアできるが、一人だと量が多すぎる。焼肉ライクは50グラム単位のオーダーを可能にした。ハラミ50グラム、カルビ100グラム、タン50グラム——自分の食欲と予算に合わせて自在に組み合わせられるのだ。
そしてコロナ禍が、この業態を完全に「正しかった」と証明した。
2020年、飲食業界が壊滅的な打撃を受ける中、焼肉業界は堅調だった。東京商工リサーチのデータによると、2020年の焼肉店の倒産件数は過去10年間で最少の14件。対照的に居酒屋は2020年11月の売上が前年同月比41%減という惨状だった。
理由はシンプルだ。焼肉店の排煙装置は換気性能が高い。飛沫リスクが相対的に低い。そして「一人焼肉」は三密を回避できる外食として注目された。
日本フードサービス協会の統計によると、2020年11月の焼肉店売上は前年同月比9.4%増。コロナ禍にあっても2カ月連続でプラスを記録した。
焼肉ライクはこの状況を逆手に取り「今こそひとり焼肉」キャンペーンを展開。「換気できる安心な外食環境」として積極的にアピールした。コロナ禍の飲食業界で、焼肉ライクの店舗数はむしろ約3倍に拡大した。
「一人焼肉」が生み出したのは店舗だけではなかった。
矢野経済研究所によると、2020年には「第三次おひとりさまブーム」が到来し、「一人外食」の市場規模は外食全体で7兆9000億円を超えた。
おひとりさまブームの先駆けとして社会的なムーブメントを作ったのは、テレビドラマ「孤独のグルメ」(原作・久住昌之、漫画・谷口ジロー)だ。一人でひたすら食事を楽しむサラリーマンを描いたこの作品は、「一人で食べる」ことをネガティブなものからポジティブなものへと文化的に転換した。
孤独のグルメが「一人で食べることはカッコいい」というイメージを作り、焼肉ライクがそこに「一人で焼肉まで食べられる」という選択肢を加えたとも見れるのかもしれない。
一人焼肉の定着は、日本社会の変化がもろに反映されている事例でもある。
単身世帯の増加。非婚化。職場の飲み会文化の衰退。「人に気を使わず、自分のペースで食べたい」という価値観の台頭。
「食事は共同行為だ」という暗黙の前提が、少しずつ崩れていっている。
2018年8月に新橋で始まった一人焼肉革命は、単なる飲食店の新業態を超えて、日本人の食の在り方が変わっていることを可視化したひとつの事件だった。
それでは今回はこれでおしまい。
ではまた、次のレポで















この記事を読んで、1999年に引っ越していったばかりの中目黒で起きた事件(?)を思い出しました。
当時、私が住んでいた所の近所には地元では有名な美味しくて安い焼き肉屋があり、いつも人が並んでいました。
両親が共働きだった関係もあり(あと心臓に毛が生えている関係もあり)子供の頃から一人で外食する習慣があった私は、焼き肉屋でも牛丼屋でも平気で一人で外食していました。
その時も一人で焼き肉を食べるつもりで並んでいたのですが、だいぶ長い時間待って私の順番になったとき、「すみません、お一人様はお断りしています」と店の人に言われました。
当時の若い私は「私大食いで一人でも2.3人前は平気で食べますから」と食い下がりましたがダメでした。
その後、私は散々この話を彼方此方で憤慨とともに話していました。
今ならもうこんな思いをすることはないのでしょうね。
今は自宅で仕事をする自由業の人と結婚したため一人で外食する機会は逆に滅多になくなりましたが。
一人焼肉の歴史って、こんなに浅いんですね😳もっと前からあると思っていました。意外です。
こんなに最近できたものが、ここまで市民権を得てお店が増えたというのは、やっぱりそれだけニーズがあったということなんですね!
ありがとうございます。とても勉強になりました!